日記: 7月28日(2017年)

 「夏休みだ。読書感想文の季節だ。ってことでボクの好きな本を紹介する」

 というようなネタの記事を見た。おお、実に面白そうなネタなじゃぁないか。よしよし、恥も外聞もなくアイデアをパクって、私も書こうぞ。

 ってなわけで、蝿さんおすすめの10冊をご紹介。普段から本をそんなには読まない人向けに、単純に楽しく、かつ、それほどボリュームのないものを中心にチョイスした。盆休みに読め!

■ 王妃の離婚

 佐藤賢一(著)
 集英社文庫

 1498年フランス。国王が王妃に対して離婚裁判を起こした。田舎弁護士フランソワは、その不正な裁判に義憤にかられ、孤立無援の王妃の弁護を引き受ける……。直木賞受賞の傑作。

 1冊挙げろと言われればこの本を推す。

 中年のインテリ崩れが、インテリとしての自分と青春とを取り戻す物語。最初から最後まで弛むことなく、知的な刺激を感じ続けたまま読み進めることができる傑作中の傑作。切った張ったではなく、言葉と理論の戦いでここまで熱い展開はなかなか見られない。

 沈黙よりも雄弁こそが金だと信じる人におすすめ。討論とかが好きで、掲示板バトル上等、という人におすすめ。言い争いは面倒くさい、うるさい、だまれ、もういい、って人は面白くないのかもしれない。とことん言い合うほうが好きな人向け。

 この作者の本は、初期のころのものが勢いがあっていい。エンタメ勢としては、あとは「傭兵ピエール」「双頭の鷲」を読んでおけばよろしいかと思われる。これらはいずれ劣らぬ名作。

■ 楽毅

 宮城谷昌光(著)
 新潮文庫

 古代中国の戦国期、「戦国七雄」にも数えられぬ小国、中山国宰相の嫡子として生まれた楽毅は栄華を誇る大国・斉の都で己に問う。人が見事に生きるとは、どういうことかと。諸子百家の気風に魅せられ、斉の都に学んだ青年を祖国で待ち受けていたのは、国家存立を脅かす愚昧な君主による危うい舵取りと、隣国・趙の執拗な侵略だった。才知と矜持をかけ、若き楽毅は祖国の救済を模索する。

 春秋戦国に強い著者、宮城谷昌光の作品の中でも一番輝いていると感じられる作品。

 歴史に名高い軍神楽毅の生涯を描いたもの。全4巻構成と、今回紹介するものの中では長いほう。実際のところ、最初の3巻は史実に描かれない部分であり、前座。最後の4巻こそが真骨頂。溜めに溜めたパワーを、史実通りの偉業として一気に爆発するような構成。

 絶頂期はよくても晩節はみじめ、という偉人の多い春秋戦国期にあって、最後まで輝いていた人物が題材であるという点もいい。

■ おしどり探偵

 アガサ・クリスティー(著)
 坂口怜子(翻訳)
 ハヤカワ文庫―クリスティー文庫

 冒険好きな若夫婦のトミーとタペンスが、国際探偵事務所を開設した。平和で退屈な日々は、続々と持ちこまれる事件でたちまち慌ただしい毎日へと一変する。だが、二人は持ち前の旺盛な好奇心と若さとで、猟犬のごとく事件を追いかける!おしどり探偵が繰りひろげるスリリングな冒険を描いた短篇集。新訳で登場。

 史上最強のストーリーテラーの一角、アガサ・クリスティからはマニアックなものを選んだ。

 トミーとタペンスものは、クリスティの作品の中でも実に軽妙で、肩ひじ張らずにサクッと読めるのが気に入っている。ライトノベル感覚。普段活字に触れていない層でも安心。推理小説としては、トリックなどは近代の凝りに凝ったものにくらべると物足りないかもしれないが、古き良き英国の空気を感じられるという付加価値込みで、とても楽しい。

 また、クリスティのド定番であるポワロやミスマープル、そして誰もいなくなった、等々ももちろんおすすめ。ただこれらは作品や翻訳者によっては、すんなり頭に入らないものも多い、当たりはずれのある印象。

■ 街道をゆく〈20〉中国・蜀と雲南のみち

 司馬遼太郎(著)
 朝日文庫

 蜀の地・四川から雲南へ―。少数民族七百万の暮らしに日本民俗との接点を見る。

 街道をゆくシリーズは、個人的には国内編は退屈で、海外編が面白い。今回は「蜀と雲南のみち」を挙げたけど、ほかにも同じ中国の江南や閩、モンゴルにアイルランドなどが海外編としてあり、それぞれの地に司馬遼太郎が訪れ、独自の史観に基づく洞察をする姿をうかがうことができる。

 この「蜀と雲南のみち」、特に「蜀のみち」は、読んで大変にその土地に興味を持つようになり、後日実際に蜀(中国成都)に旅行に行ってくるほどの影響を私は受けた。司馬遼太郎と同じように、成都郊外の諸葛武候祠で、杜甫の詩「蜀相」に思いをはせることができたのは、今でも忘れられない経験となった。

 この本に描かれているのは、もう数十年前の様子なので、特に中国などは現在とは隔世の感がある。そういう時代の変化も込みで、また変わらぬ悠久の歴史や文化を見出すという点も込みで、読みたい。

■ 沈黙のフライバイ

 野尻抱介(著)
 ハヤカワ文庫JA

 アンドロメダ方面を発信源とする謎の有意信号が発見された。分析の結果、JAXAの野嶋と弥生はそれが恒星間測位システムの信号であり、異星人の探査機が地球に向かっていることを確信する―静かなるファーストコンタクトがもたらした壮大なビジョンを描く表題作、一人の女子大生の思いつきが大気圏外への道を拓く「大風呂敷と蜘蛛の糸」ほか全5篇を収録。宇宙開発の現状と真正面から斬り結んだ、野尻宇宙SFの精髄。

 SF部門代表。

 SFとしては、クラークの「宇宙のランデヴー」などを挙げたくもなるものの、読みやすさや親しみやすさなどの点から、この作品を挙げた。一般人向けの表現で、比較的最近書かれた、しかも短編集なので、本当に気軽にSFに触れられるSF良著。

 作者はライトノベルレーベルでもSF/スぺオペを書いている。ロケットガールくらいラノベ臭がきつくなると、私には少々ついていけないのだけど、クレギオンシリーズなどはジュブナイル寄りのスぺオペの名作なので、大人にもおすすめしたい。

■ 韃靼疾風録

 司馬遼太郎(著)
 中公文庫

 なぜか九州平戸島に漂着した韃靼公主を送って、謎多いその故国に赴く平戸武士桂庄助の前途になにが待ちかまえていたか。「17世紀の歴史が裂けてゆく時期」に出会った2人の愛の行方を軸に、東アジアの海陸に展開される雄大なロマン。第15回大仏次郎賞受賞作。

 同じ著者を2度出すのはどうかなぁ、と思ったんだけども、司馬大先生なら許されることだろう。

 明王朝を打倒し、清王朝を打ち立てた女真族と、日本人との交わりを描いた作品。女真族を中心に据えるという舞台設定が面白い。著者の遊牧民族への深い愛を感じる。この本を読む前は、明と清を並べた場合、心情的に被征服民である明に同情的だったんだけど、この本を読むと断然清贔屓になる。そのくらい魅力ある物語だった。

 司馬遼太郎の作品のなかで、わざわざマイナーなものを挙げるのもどうかと思ったんだけど、こういう「知らなかったもの」が題材であるというのは、新選組や有名戦国武将が題材であるものよりも、「本による知識的な出会い」が強調されて好ましく感じるのだ。

■ ぼんくら

 宮部みゆき(著)
 講談社文庫

 「殺し屋が来て、兄さんを殺してしまったんです」―江戸・深川の鉄瓶長屋で八百屋の太助が殺された。その後、評判の良かった差配人が姿を消し、三つの家族も次々と失踪してしまった。いったい、この長屋には何が起きているのか。ぼんくらな同心・平四郎が動き始めた。著者渾身の長編時代ミステリー。

 時代劇部門堂々の1位。

 あまり時代小説は読まないんだけど、このシリーズは本当に面白かった。続編の「日暮らし」とともにおすすめしたい。

 宮部みゆきは本当に文章がうまい。さらっとしていて、内容が脳みそに到達する速度にかけては、比肩するものは少ない。彼女の作品にはホラーだったりサスペンスだったりする、ちょっと気構えのいるものも多いんだけど、このシリーズはそういう暗さがなく、読中も読後も清涼でさわやか一辺倒。それがいい。

■ 七王国の玉座(氷と炎の歌1)

 ジョージ・R・R・マーティン(著)
 岡部宏之(翻訳)
 早川書房

 ウェスタロス大陸の七王国は、長い夏が終わり、冬を迎えようとしていた。狂王エイリスを倒し、ターガリエン家から〈鉄の玉座〉を奪って以来、バラシオン家、ラニスター家、スターク家ら王国の貴族は、不安定な休戦状態を保ってきた。だが、ロバート王がエダード・スタークを強大な権力を持つ〈王の手〉に任命してから、状況は一変する。それぞれの家の覇権をめぐり様々な陰謀が渦巻き……。ローカス賞に輝く歴史絵巻開幕!

 ファンタジー部門代表。

 世間的にはドラマ版のゲーム・オブ・スローンズで有名なファンタジー巨編。著者が遅筆過ぎて、一向に新刊が出ないばかりか、ドラマ版に展開で追い抜かれた。原作を派生が追い抜くというまさかの展開。むしろ著者もドラマ版の監修のほうに夢中。それで余計に新刊が出ない。ファッキンドラマ版。

 世界観や内容は間違いなく一流だけど、今回挙げた本の中では、ボリュームもあり、登場人物の把握も難しく、未完でもあるので、少し読むのがかったるい系でもある。

■ 深夜特急

 沢木耕太郎(著)
 新潮文庫

 インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗合いバスで行く――。ある日そう思い立った26歳の〈私〉は、仕事をすべて投げ出して旅に出た。途中立ち寄った香港では、街の熱気に酔い痴れて、思わぬ長居をしてしまう。マカオでは「大小(タイスウ)」というサイコロ賭博に魅せられ、あわや……。一年以上にわたるユーラシア放浪が、いま始まった。いざ、遠路2万キロ彼方のロンドンへ!

 紀行文の白眉。バックパッカーのバイブル・・・だったようだ。今は知らないが。

 前掲の「街道をゆく」と同じく、数十年前の世界の紀行文なので、現在とは趣が異なる部分も多い。それでも色あせない魅力がある。

 我々の世代的には、世界観としては「猿岩石のユーラシア大陸横断」に近い。得られる楽しみも近い。ユーラシア大陸各地の風物をベースに、人と人との交流や、貧乏旅行の甘み辛みを伝えてくれる。そして読後には、猛烈に旅行に行きたくなる。そういうパワーのある一作。

 私などは今でも旅先でフェリーに乗り、風を浴びると心でつぶやく。「Breeze is nice」

■ タテ社会の人間関係

 中根千枝(著)
 講談社現代新書

 「ウチの者」と「ヨソ者」、派閥メカニズム、日本型リーダーの条件…。ビジネスパーソン必読、これを読まずに組織は語れない。なぜ日本人は上下の順番のつながりを気にするのか? なぜ日本人は資格(職業など)よりも場(会社など)の共有を重視するのか? 日本の社会構造を鋭く析出したベストセラー!

 最後は少々お堅い本。

 ウェブ掲示板などで「日本人は~だからなぁ」とかほざく、浅薄なクソガキにこそおすすめしたい一冊。賢明なる弊サイト読者諸兄にも、なんらかの知的補完となろうことは請け合いで、もちろんおすすめしたい。

 今回紹介するなかで最古の著作ながらも、いまだに色あせない理論を展開している、文化人類学的名著。書いてあることすべてを鵜呑みにしろとは言わないものの、こういうしっかりとした先行文献を腹に収めたうえで、若者は日本人論を展開してほしいと、そして世界に羽ばたいてほしいと切に願う(オンラインゲーム的な意味で)。

日記: 7月28日(2017年)」への4件のフィードバック

  1. Awayuki

    ゲーム・オブ・スローンズはドラマ版が大好きで全巻BDを買っています。
    たしかに登場人物が多くて絡みも複雑なので理解するのに難しい。

    返信
    1. Nez/蝿 投稿作成者

      ドラマ版は逆に見たことがなかったり。
      イメージ崩れそう、とかいう繊細な理由があるわけでもないのだけど観る機会がない感じ。
      とりあえずイメージよりティリオンがかっこいいのは知ってる。

      返信
    1. Nez/蝿 投稿作成者

      なるほど面白そうだ。
      Kindle版がないのが残念だなぁ。
      Kindleリクエストをとりあえず押しておいた。

      返信

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