日記: 6月17日 (2004年)

 古い書類を探して、古い引き出しをあさっていたところ、おもしろいものを発見した。

 それは、下敷き、である。ものを書く際に紙の下に敷く、ぺらぺらのプラスティックでできた下敷き。学生が夏に、ウチワのかわりに使う、あの下敷きだ。

 もちろんただの下敷きではない。その下敷きは、私の通っていた小学校が、創立三十五周年を記念して作り、生徒に配布したものでなのである。

 その下敷きには二種類あり、一方には全校生徒が校庭で作った、人文字の空撮写真が。もう一方には、学校を中心とした学区全体の空撮写真が、それぞれプリントされている。人文字の下敷きも、その中の一ドットが自分なだけあって、それなりに興味深いのであるが、私の興味をより強く引いたのは、学区全体の空撮写真のほうだ。

 その学区のある街には、私は現在住んでおらず、頻繁には赴くこともない街なのだけど、それでも年に数回、車やバイクで通りがかることもある街、という遠くも近くもない距離感を抱いている。しかし、その下敷きに描かれている街は、私の最新の記憶の中にあるこの街ではなかった。下敷きの中のこの街は、幼い頃の私が、毎日かけずり回って警察ごっこや、缶蹴りをしていた、心の中の故郷ともいうべき、あの街並みを完全に残していたのだ。

 「あー、この忠実屋よくカーチャンといったなぁ。今はマンションになってるけど」
 「おー、ここ、M田の住んでたアパートじゃん」
 「このK商店でよく駄菓子の買い食いしたなぁ」
 「この交差点で、チャリで車につっこみかけたよ。死ぬかとおもった」

 下敷きの中の街に想像上の自分を歩かせ、しばし幼い日の思い出に浸る。

 あのころより人口も増えたあの街。しかしもう存在しない街。そんな街をにわかに思い出し、なにやらニヤニヤしてしまう私なのであった。うーん、老人趣味だな・・・。

 余談ながら、探していた古い書類は発見できなかった。困ったな。

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