もう入院している必要はないんじゃないだろうか。そんなことを考えるようになった。
点滴が必要なほど衰弱しているわけでもないし、歩けるし、食えるし、脱走だってできる。リハビリも特別な器具を使っているわけではないから、家でだってできる。当初入院期間は1ヶ月と聞かされていたんだけど、これ以上入院しても、入院費用がかさむだけだ。1ヶ月は最長の期間であって、私のような若く回復力のある患者なら、3週間でも退院できるはずだ。
よし、退院しよう。決めた。
ちょうどこの日の午前に、執刀してくれた院長先生の回診があったので、おもむろに切り出してみた。
―もう退院できそうな気がしてるんですけどどうでしょう
「そうですね、明日で退院しますか」
院長先生判断早ええええ。もう少し説得が必要になるかと、いろいろと屁理屈を用意していたのに拍子抜けだ。
ともあれ、そんなわけで急遽退院が決定した。
この日の昼過ぎ、お見舞いに来た母にその旨を伝えると、母のほうは大慌て。退院を迎えに来る時間はどうするだとか、帰りのタクシーを呼ぶことだとか、明日の夕食は何がいいかだとか、そんなことをまくし立てながら、打ち合わせをすると、急で困るだのなんだのと悪態をつきながら、この日は帰っていった。
その目は少し潤んでいた。