「夏休みだ。読書感想文の季節だ。ってことでボクの好きな本を紹介する」
というようなネタの記事を見た。おお、実に面白そうなネタなじゃぁないか。よしよし、恥も外聞もなくアイデアをパクって、私も書こうぞ。
ってなわけで、蝿さんおすすめの10冊をご紹介。普段から本をそんなには読まない人向けに、単純に楽しく、かつ、それほどボリュームのないものを中心にチョイスした。盆休みに読め!
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■ 王妃の離婚
1冊挙げろと言われればこの本を推す。
中年のインテリ崩れが、インテリとしての自分と青春とを取り戻す物語。最初から最後まで弛むことなく、知的な刺激を感じ続けたまま読み進めることができる傑作中の傑作。切った張ったではなく、言葉と理論の戦いでここまで熱い展開はなかなか見られない。
沈黙よりも雄弁こそが金だと信じる人におすすめ。討論とかが好きで、掲示板バトル上等、という人におすすめ。言い争いは面倒くさい、うるさい、だまれ、もういい、って人は面白くないのかもしれない。とことん言い合うほうが好きな人向け。
この作者の本は、初期のころのものが勢いがあっていい。エンタメ勢としては、あとは「傭兵ピエール」「双頭の鷲」を読んでおけばよろしいかと思われる。これらはいずれ劣らぬ名作。
■ 楽毅
春秋戦国に強い著者、宮城谷昌光の作品の中でも一番輝いていると感じられる作品。
歴史に名高い軍神楽毅の生涯を描いたもの。全4巻構成と、今回紹介するものの中では長いほう。実際のところ、最初の3巻は史実に描かれない部分であり、前座。最後の4巻こそが真骨頂。溜めに溜めたパワーを、史実通りの偉業として一気に爆発するような構成。
絶頂期はよくても晩節はみじめ、という偉人の多い春秋戦国期にあって、最後まで輝いていた人物が題材であるという点もいい。
■ おしどり探偵
史上最強のストーリーテラーの一角、アガサ・クリスティからはマニアックなものを選んだ。
トミーとタペンスものは、クリスティの作品の中でも実に軽妙で、肩ひじ張らずにサクッと読めるのが気に入っている。ライトノベル感覚。普段活字に触れていない層でも安心。推理小説としては、トリックなどは近代の凝りに凝ったものにくらべると物足りないかもしれないが、古き良き英国の空気を感じられるという付加価値込みで、とても楽しい。
また、クリスティのド定番であるポワロやミスマープル、そして誰もいなくなった、等々ももちろんおすすめ。ただこれらは作品や翻訳者によっては、すんなり頭に入らないものも多い、当たりはずれのある印象。
■ 街道をゆく〈20〉中国・蜀と雲南のみち
街道をゆくシリーズは、個人的には国内編は退屈で、海外編が面白い。今回は「蜀と雲南のみち」を挙げたけど、ほかにも同じ中国の江南や閩、モンゴルにアイルランドなどが海外編としてあり、それぞれの地に司馬遼太郎が訪れ、独自の史観に基づく洞察をする姿をうかがうことができる。
この「蜀と雲南のみち」、特に「蜀のみち」は、読んで大変にその土地に興味を持つようになり、後日実際に蜀(中国成都)に旅行に行ってくるほどの影響を私は受けた。司馬遼太郎と同じように、成都郊外の諸葛武候祠で、杜甫の詩「蜀相」に思いをはせることができたのは、今でも忘れられない経験となった。
この本に描かれているのは、もう数十年前の様子なので、特に中国などは現在とは隔世の感がある。そういう時代の変化も込みで、また変わらぬ悠久の歴史や文化を見出すという点も込みで、読みたい。
■ 沈黙のフライバイ
SF部門代表。
SFとしては、クラークの「宇宙のランデヴー」などを挙げたくもなるものの、読みやすさや親しみやすさなどの点から、この作品を挙げた。一般人向けの表現で、比較的最近書かれた、しかも短編集なので、本当に気軽にSFに触れられるSF良著。
作者はライトノベルレーベルでもSF/スぺオペを書いている。ロケットガールくらいラノベ臭がきつくなると、私には少々ついていけないのだけど、クレギオンシリーズなどはジュブナイル寄りのスぺオペの名作なので、大人にもおすすめしたい。
■ 韃靼疾風録
同じ著者を2度出すのはどうかなぁ、と思ったんだけども、司馬大先生なら許されることだろう。
明王朝を打倒し、清王朝を打ち立てた女真族と、日本人との交わりを描いた作品。女真族を中心に据えるという舞台設定が面白い。著者の遊牧民族への深い愛を感じる。この本を読む前は、明と清を並べた場合、心情的に被征服民である明に同情的だったんだけど、この本を読むと断然清贔屓になる。そのくらい魅力ある物語だった。
司馬遼太郎の作品のなかで、わざわざマイナーなものを挙げるのもどうかと思ったんだけど、こういう「知らなかったもの」が題材であるというのは、新選組や有名戦国武将が題材であるものよりも、「本による知識的な出会い」が強調されて好ましく感じるのだ。
■ ぼんくら
時代劇部門堂々の1位。
あまり時代小説は読まないんだけど、このシリーズは本当に面白かった。続編の「日暮らし」とともにおすすめしたい。
宮部みゆきは本当に文章がうまい。さらっとしていて、内容が脳みそに到達する速度にかけては、比肩するものは少ない。彼女の作品にはホラーだったりサスペンスだったりする、ちょっと気構えのいるものも多いんだけど、このシリーズはそういう暗さがなく、読中も読後も清涼でさわやか一辺倒。それがいい。
■ 七王国の玉座(氷と炎の歌1)
ファンタジー部門代表。
世間的にはドラマ版のゲーム・オブ・スローンズで有名なファンタジー巨編。著者が遅筆過ぎて、一向に新刊が出ないばかりか、ドラマ版に展開で追い抜かれた。原作を派生が追い抜くというまさかの展開。むしろ著者もドラマ版の監修のほうに夢中。それで余計に新刊が出ない。ファッキンドラマ版。
世界観や内容は間違いなく一流だけど、今回挙げた本の中では、ボリュームもあり、登場人物の把握も難しく、未完でもあるので、少し読むのがかったるい系でもある。
■ 深夜特急
紀行文の白眉。バックパッカーのバイブル・・・だったようだ。今は知らないが。
前掲の「街道をゆく」と同じく、数十年前の世界の紀行文なので、現在とは趣が異なる部分も多い。それでも色あせない魅力がある。
我々の世代的には、世界観としては「猿岩石のユーラシア大陸横断」に近い。得られる楽しみも近い。ユーラシア大陸各地の風物をベースに、人と人との交流や、貧乏旅行の甘み辛みを伝えてくれる。そして読後には、猛烈に旅行に行きたくなる。そういうパワーのある一作。
私などは今でも旅先でフェリーに乗り、風を浴びると心でつぶやく。「Breeze is nice」
■ タテ社会の人間関係
最後は少々お堅い本。
ウェブ掲示板などで「日本人は~だからなぁ」とかほざく、浅薄なクソガキにこそおすすめしたい一冊。賢明なる弊サイト読者諸兄にも、なんらかの知的補完となろうことは請け合いで、もちろんおすすめしたい。
今回紹介するなかで最古の著作ながらも、いまだに色あせない理論を展開している、文化人類学的名著。書いてあることすべてを鵜呑みにしろとは言わないものの、こういうしっかりとした先行文献を腹に収めたうえで、若者は日本人論を展開してほしいと、そして世界に羽ばたいてほしいと切に願う(オンラインゲーム的な意味で)。