日記: 1月25日(2016年)

 子供の頃、遊園地の乗り物であわや死にかけた。

 丸いゴンドラに乗って、それがぐるぐる縦に回転するという乗り物(こんなのだ)。垂直方向に何回転もするので、天地が逆転しても落下しないように、当然人間はハーネスで座席に固定される。

 しかしその日、ハーネスで固定する係りのあんちゃんが、私と姉の乗るゴンドラにやってこなくて、固定されないまま動き出してしまった、という事件が発生した。

 ゴンドラに乗る私と姉。その様子を外で見守る両親。なかなか係員こないなー、とゴンドラの内外でお互いに顔を見合わせながらも、一同は、そのうちくるだろう、と楽観して待っていた。

 しかしその期待に反して、遊具は着座した我々が固定されないままに、音楽とともに動き出してしまった。

 まさかの事態に青ざめる母と姉と私。

 そんな中、父だけは違った。

 遊具が動き出すや否や、恐ろしい瞬発力で弾けるように操作席にダッシュ。そこにいる係員を怒鳴りつけ、ゴンドラが回転しだす前に、見事、動きを止めさせたのだった。その間ほんの数秒。あの父が、あんなにすばやく動くことができるとは、予想だにしなかっただけに、自分が助かったことよりも、まず驚いてしまった。

 普段は、寝っ転がってテレビを見てばかりで、ろくに遊びにつれていってもくれないグータラな父。しかし、このとき、ざわつく周囲を一顧だにせず、もう大丈夫だぞ、という表情で悠然と戻ってきた父の姿は、間違いなくヒーローのそれだった。

 そんな父も先週末で70歳になった。ここで言っても仕方がないが、感謝をこめて、おめでとう。

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