この二週間をかけて、近所の三軒の中華料理店で麻婆豆腐定食対決を実施した。無論自分だけで。エントリーしたのは、「住宅街の中にある街の中華料理屋」「駅前にある大衆的中華料理屋」「おしゃれな本格中華料理屋」の三軒だ。
まず訪れたのは、「住宅街の中にある街の中華料理屋」。大通りから少し住宅地に入り込んだところにあるその店の周囲には、マンションと一軒屋の住宅しかない。昼時にはどこからともなくサラリーマンが来ているようだけど、出前も含め、基本的には周囲の住民がメインターゲットと思しい(知らないけど)。
で、目的の麻婆豆腐定食を注文。740円。しばらく待ってやってきたそれは、ひき肉がずいぶんと少ない、というか豆腐以外の具がおしなべて少ない、殺風景な一品だった。あんの粘性は高めで、どろどろ気味。食べてみると、辛さ控えめ…というかほぼなし、甘さ強め…というか明確に甘い、といった風。わかりやすくたとえるならば、麻婆豆腐と酢豚のあんを足して二で割ったような、そんな味だった。率直に言って「変な味だな」と思わざるを得ない。まずくはないけど、期待していた麻婆豆腐の味では確実になかった。具の貧弱さもあいまって、740円の価値は、あいにくながらなかったと明言できる。二度とこの品を頼む事はないだろう。
続いて「駅前にある大衆的中華料理屋」に突入する。駅前ゆえか、前の店と比較して、店の雰囲気に騒然とした、慌しげな様子が強く伺える。とはいえ、前の店が立地や客層の関係で静か過ぎた、という部分が多分にあるため、むしろこのくらい活気があるほうが、席に座っていて落ち着くかもしれない。
そして再び麻婆豆腐定食を注文する。750円。こんどはやたらと粘性の低い、さらさらした一品だった。前回と違い、ふんだんにひき肉が入っていて、味の傾向も、甘いより塩辛い方向になっている。辛さはやや控えめ。辛さにあまり強くない私が、ご飯のおかずとするにはベストなバランスで味が構成されている。あえて問題を挙げるならば、やはりその粘性のあまりの少なさと、やや過剰な油分を感じる点だ。粘性が少ないため、少し冷えると、すぐに「麻婆豆腐スープ」といった体裁になってしまい、食うというよりも飲むに近い感覚になってしまう。幸いなことに具が多いため、あんがサラサラになっても、食物の体裁は維持されていたものの、なんとなく食い急いでしまった。加えて、油分が多めに入っているように感じたので、健康面でヤバキチな私としては、食いながらも、若干の不安を覚えてしまうのであった。味はいいんだけど、精神的にやや減点。
最後は「おしゃれな本格中華料理屋」。綺麗に舗装され、レンガ敷きになっている広めの歩道を有する通りに面したその店は、敷地面積こそ狭いものの、店構えもおしゃれ、雰囲気あくまで上品、一人でも入りやすく、大勢でもOKという、飲食店のお手本のような店。各種メディアでも何度か取り上げられている、「庶民の店」としては最高峰に位置する一軒だ。
麻婆豆腐定食。680円。本格的なのに一番安い。やるな。出てきた麻婆豆腐は、実にオーソドックスなそれでありながらも、山椒の味が強く効いているなど、本格的な風味が色濃い。山椒のしびれるような刺激のみならず、唐辛子もふんだんにはいっているらしく、辛さという点では今までの三軒中で圧倒的にトップだ。辛さの裏には複合的に絡み合った、色々な素材の味が感じられ、中華料理の真髄たる深い味わいを与えてくれる良品だ。が、ワタクシこのサイトで何度となく申し上げているように、辛いものが苦手なたちでして…。辛いものは嫌い、でも麻婆豆腐は好き(カレーにも同じことが言える)という困ったちゃんなわけで。ってなわけで、本格的な勢いで容赦なく加えられた辛味には、正直耐え難いものがあったのでした。間違いなく一番うまかったんだけど、同時に食うことが苦痛だったという、いかんともしがたいアンビバレンツ。にんともかんとも。
ってなわけで、三軒を回った結果…
「住宅街の中にある街の中華料理屋」 30点
「駅前にある大衆的中華料理屋」 80点
「おしゃれな本格中華料理屋」 80点
といったところが、現時点での評点かな。「おしゃれな~」についていえば、冬になればあのくらい辛いほうがホット感が出てよいのかもしれない。とりあえず、最初の一軒以外は、十分再食に耐えうるというか、食生活ローテーションに組み込むにやぶさかではないものだったので、ここは一つ、レパートリーの増加を喜んでおくことにしよう。