日記: 10月12日 (2006年)

 最近読んだ本。

 「管仲(宮城谷昌光:文春文庫)」

 春秋戦国時代の名宰相、管仲を主人公にした歴史小説。管仲は、春秋五覇の筆頭格である斉の桓公を覇者たらしめたことと、親友鮑叔との「管鮑の交わり」の故事ともなった友情とで有名。

 歴史小説としてみると、著者の創作の苦労がそこかしこに見える。あとがきで著者本人も言っているように、管仲には歴史的資料の裏づけのある逸話が少なく、そのためエピソードの大半が推測に基づいた創作でできているように思われる。なので、どうしても歴史小説と架空戦記小説の中間のような印象を与えてしまう。歴史小説はその創作部分も楽しみの1つではあるんだけど、この作品はその比重が極めて大きいので、「マジメな」歴史小説好きにはオススメできないかもしれない。

 歴史小説という括りを脱して、普通に物語としてみてみると、まぁまぁの佳作、ってところかな。

 話の内容を大雑把にいえば、「大才の士が、雌伏の期間を経て、苦労の末、覇者の宰相として、天下の経営者となる」…という内容なわけなんだけど、その雌伏の期間の小説全体に占めるボリュームが大きく、その割に起伏に乏しいのがつらい。また雌伏の期間と言っても、最終的な地位を宰相と定めるから雌伏といえるんだけど、その実態は、客分扱いだったり、商人だったり、公子の教育係だったりと、結構なお身分であることが多く、少なくとも食うに困るほどのレベルではないので、どうも「人一倍苦労した」という感じがせず、読んでいても管仲の応援に身が入らない。「人並みに苦労した」と見るのがせいぜいなのだ。そのため、耐えて耐えて耐えて、一気に爆発して成功、というような場合に感じるカタルシスがすくない。サクセスストーリーとしては、致命的なように思われる。

 とはいえ、クライマックスの鮑叔との世継ぎをめぐる戦い、敗北、友情、栄達、という怒涛の展開は、さすがに爽快感でいっぱいだった。また、この部分は、歴史的事実を相当忠実に反映しているので、すでに知っている事実へと話が収束していく、安定感・安心感も大いにプラスに作用した。無論、歴史的事実を知らなくても、それはそれでむしろ面白いに違いない。数千年にわたって語り継がれている逸話なので、その面白さは保証付だ。

 トータル的に見ると、文庫本2冊を一気に読みきれるだけの面白さは十分にある。ただ、同じ作者の作品の「楽毅」あたりに比べると、私的にはやや劣る感じを否めない。決定的な差は、作者の力量とか、小説そのものの面白さではなくて、題材にした人物の良し悪しなんだと思う。

 「晩成」した大人物の、「謎」の少壮期。この辺がウィークポイントなのだと思われる。謎の少壮期に才能を描写しなければならないのに、謎の少壮期に成功させてはいけない。そのため、本文分量の大半の部分で、才能があるようなのに成功しないもどかしさ、過程と結果が釣り合わないちぐはぐさを感じさせられて、釈然としない。予定調和の弊害とでもいおうか、まぁ、難しい題材だわ。

 この題材にしては「良くやった」。
 この作者にしては「まあまあ」。

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