到着したキャンプ場は、海まで徒歩3分。炊事場、コインシャワー、トイレ、極めて清潔。ウォシュレットまであり。場内電灯あり・・・という、節約を旨とすることの多いバイクツーリングで利用するにはやや高級すぎる、いわゆる高規格キャンプ場というところだった。1区画5000円というような、本来はファミリーキャンパー向けのキャンプ場だ。
なんだけども、このキャンプ場ではその場内の一角を・・・というか、余ったスペースを、バイク用の区画としてテント1張2000円で使えるように用意されていた。2000円でもかなり高いけど、海至近というロケーションと、コース的に都合のよい立地、そしてなにより、バイクでは無縁だと思っていた高規格キャンプ場を覗き見るチャンス、ってことでここに陣を張ることにした。
どたばたと設営完了
さて前回言ったように、夕方という明るさを通り越し、夜というべき時刻に到着したので、時間の猶予はない。完全な暗闇になる前に、テントを設営せねば。視界が悪い中、しかしテキパキと設営を進めていく。こういう場面では、「月明かりでも設営できる」がウリの我がテント、ムーンライト2型の実力が存分に発揮できた。設営自体にも、すっかり慣れた感じで、我ながら頼もしい。
テントが無事設営できたら、もうやることはない。飯だ!
そもそも「野外で1人焼肉宴会」を夢見てキャンプツーリングをはじめ、しかし過去2回とも雨にたたられたわけだけども、今回はついにこれを達成できた。感無量だ。
肉カモーン
使用3回目で、だいぶ煤けてきたピラミッドグリル・コンパクトを組み立て、炭を熾す。同時に、ストーブとコッヘルと不思議なめし袋を使って、炊飯も開始だ。今晩のメニューは、肉、飯、酒。それだけ。潔い。
10月末ともなると、日中はともかく、夜はやはり冷える。薄手のダウンジャケットを羽織って、万全の構えをとりつつ、1人宴会のスタートと相成った。
たまに脇を通りかかるファミリーキャンパーの好奇の視線(被害妄想)を、鋼鉄の精神力でシカトしつつ、食い、飲み、食う。暗闇の中で、赤熱する炭火と焼かれる肉とを見つめながら、静かに飲食をしているそのイメージは、昔のネスカフェのCMのようで、妙なヒロイズムに浸ることができた。リアルモンハンだぜー!みたいな。ヒロイズムというよりもナルシズムかな。
道の駅で買ってきたペールエール
黒ビール2缶、地ビールのペールエール1瓶、安物のブラックニッカの小瓶1つを空け、豚と鶏で合計400gほどの肉も食いつくし、大満足。この日は気持ちよくテントに収まって、ぐっすりと寝た。
しかし。地獄はここからだった。
翌朝の目覚めは、頭痛とともにきた。ガンガンガンガン。今まで飲酒でこんなに痛くなったことはない、というくらいの激しい頭痛に襲われた。また吐くほどではないものの微量に胃のムカツキも感じる。いわゆる二日酔いというやつになってしまったらしい。
ろくに水分も取らずに、酒だけ飲み続けたのが敗因だったのだろうか。うーむ、普段飲みつけないで、イベント時にだけ飲む人間は、こういうときの加減が下手で困るよね。まぁ、私のことなんだけども。
朝の外房の砂浜
ってことで、困った。出発することはおろか、テントの撤収作業すら億劫なほど痛い。今日は、勝浦の朝市を見に行くとか、九十九里浜沿いの道を気持ちよく走るとか、そんな素敵な予定に夢膨らませていたんだけど、もうそれどころではない。無理をして朝の海岸線を見に行ってみたけど、この日の観光的行動は、これが最初で最後になった(これ以降、写真はない。撮る余裕がない)。
チェックアウトギリギリの11時までテントで寝込み、50%ほど回復したところでよろよろと出発した私は、「最短距離で東京に帰る」ということだけを目的に、コースを取った。
本来の目的のひとつだった、そして実は一番期待していた九十九里浜沿いの道も、最短距離で東京へ向かうためには、その1/3程度を走っただけで抜けなければならない通過経路でしかなかった。苦渋の思いで海岸沿いから進路を東京に向け、東金道路を目指す。
しかし私の体調は、そこで限界をむかえてしまった。なんとかたどり着いた福俵PAでバイクを止めた私は、倒れこむようにベンチにダウン。そこで仮眠を取ることにした。
は!
目が覚めると、暴風が吹き荒れていた。この日は、季節はずれの夏日だったらしく、絶好の行楽日和ではあったんだけども、その気温の大きな日較差が強風を生んでいた。私は眠りから目覚め、風の強さに一瞬呆然とした後で、大事なことに気が付いた。仮眠をとる際に、無造作にその辺においてしまった眼鏡と手袋がないのだ。
これだけの暴風だ。きっと吹き飛ばされてしまったのだろう。
破れかけの手袋はともかく、眼鏡はまずい。最悪の場合コンタクトレンズが荷物にあるから、頭痛に耐えてでも装用すればいいけど、それでも大事な眼鏡を失うのは痛い。車道で粉々になっている眼鏡の絵を想像して、青くなって周囲を見てみると、それは信じられない光景だった。
私のバイクのシートバッグをくくっているゴムコードに、なぜか眼鏡と手袋とが風で飛ばないように挟み込まれていたのだ。
おそらくは周囲を通りかかった誰かがそうしてくれたのだろう。なんという親切か。私は全く気が付かなかったのだけど、ということは逆の可能性を想像すれば、荷物を奪われていても気が付かなかったということでもある。最悪の事態と、実際に起こった事態との格差があまりにも大きく、感動してしまった。
日本ってやつぁ、なんてすばらしい国なんだ! 福俵PAの親切な方、本当に有難うございました!
体調もだいぶ復調し、親切に触れた嬉しさもあいまって、残りの帰路はさほど苦痛ではなかった。朝から何も口にしていないことを思い出し、市川PAで朝食兼昼食のミニカレーを食べて腹を満たし、そこからは一直線に我が家に帰っていったのでした。