単純に言って、多くのMMORPGプレイヤーの描くMMORPGとは、AIONのようなゲームだ。明確な設定があり、成長のロードマップがしっかりと示され、美しく、親切で、配慮に疎漏がなく、計算されていて、隙がない。クエストを受け、敵を倒し、経験値を得て、一直線に成長していく。その過程ができる限りスムーズであるほど「完成度が高い」とされ、過程を停滞させる要素はことごとく悪とされる。
出来の良し悪しはあるものの、WoW以降のMMORPGが目指したものはこれだ。いや、WoW以前からも当然漠然と目指されてはいただろうけど、WoWの示したカジュアルな成長コースと、それをナビゲートするための洗練されたシステムやUIは、その後のMMORPGの規範となって、あらゆるMMORPGはそこを目指すようになったし、そこに近づけば近づくほど「完成度が高い」とされるようになった。
でも、そんなゲームばかりで楽しいかい? 僕らが欲しいのは、クローンMMORPGかい?
私が今回FF14を評価しているのは、この「WoWに近づけ」という当然のお約束を、痛快なくらい無視しているからだ。
もちろん、無視したくて無視したわけではなく、能力的に「WoWに近づく」ことができなかっただけなのかもしれない。だけどそんなことはどうでもいい。実際に私の手元に届いたFF14は、確かに昨今のMMORPGの常識を破っているのだから。
UIが甘い、ネットワークが甘い、コミュニケーションが甘い、サーバー処理が甘い、全部甘い。でも、だからこそ、破格だ。これを評価している。
間違えて欲しくないんだけど、「だから面白い」とか「だから欠点には目をつぶれ」とか「だから高品質だ」とか言っているわけでは全然ない。
こんな完成度のものを平然と世に送り出すなんてどうかしている。スクエニには日本のゲーム界を牽引するという矜持がないのか? MMORPGを運営する才覚があるかないかでいえば、間違いなく「ない側」の人間が、FF14の上のほうで何がしかを牛耳っているのだろうという揶揄には、諸手を挙げて賛同の意を送りたい。返す返すも腹が立つ。
どこが面白いのかもわかりにくい。WoW以降の標準的なMMORPGを遊ぶつもりで遊んだら、これっぽっちも面白くない。やりたいことはできず、やりたくないことをやらされる。間違いなく駄作だ。
でも、それでも、いや、それだからこそ、そういった「わかりやすい欠点」に目がくらんで、FF14の中にある「評価すべきポイント」を見逃したくないのだ。これはもう私のMMORPGプレイヤーとしての自負の問題だ。これだけ破格、かつ個性的なタイトルを、本質以外の部分を理由に簡単にスルーしてしまうのはもったいなすぎる。今後ためにも、より深く見極めたい。FF14はそんな気にさせてくれるタイトルなのだ。
では、FF14の奇異なる部分、優れた部分はどこだろう。FF14を考えるときに対比したいMMORPGは、UOとAIONだ。UOの部分はSWGに置き換えてもいい。
AIONは前述したように、とても出来のいいMMORPGだった。しっかりとした成長の絵が描かれていて、プレイヤーキャラクターが何時間かけるとどのくらい成長して、何時間かけるとどのエリアでどんな行動をとっているかが、もう完全に計算されているんだろうな、とわかるほどに隙のないMMORPGだった。MMORPGがとてもよく研究されていて、スタッフの勤勉さが伝わってくる作品だった。
でも、その美しいグラフィックや、数々の便利機能といった装飾を全て剥ぎ取った姿を想像したときに、AIONは既視感と没個性とで構成された、凡百のMMORPGとしか思えなかった。だから私は、OBTでAIONを見限り、製品版のプレイをしなかった。
一方で、UOを考えたい。リリース当初、UOはとても出来の悪いMMORPGだった。競合相手がいなかった、という幸運が地位を押し上げたものの、実際にゲームとしてみたときに、今現在FF14が浴びている罵声の大半が、黎明期のUOにも当てはまる。サーバーは貧弱で、要求スペックはプレイヤーの環境にそぐわず、仕様はことごとく不親切で、UIも使いにくく、コミュニケーション性に関しては皆無もいいところだった。
しかしUOは唯一無二の地位を築いた。繰り返すけど、これはタイミングの勝利ではある。でも、それだけでは成功しなかったはずだ。UOの成功には、今までにない新しい楽しみを提供したということが、最も寄与していたに違いない。それまでのコンピュータRPGや、オンラインRPGの概念とは、全く違うところに身をおいている。そしてそれが新鮮さをもって受け入れられたことが、あのヒットを生んだのだ。
これはSWGにも当てはまっていて、EQ以降のMMORPGの系譜において、SWGの存在は異色だ。AO、DAoC、EQ2、WoW、VG、AoC、WAR、なんでもいい。これらは同じ方程式の元で生まれてきた。でも、SWGだけはそれらを無視して、独自の形態を模索した作品だ。SWGは、要求スペックが高すぎたこと、SWという世界であることの功罪、そして「世紀の改悪」などが残念ではあったけど、やはりこれも1つのジャンルを築いたMMORPGだった。
こういう独自さ、異色さが一定の水準を超えたとき、そのMMORPGは必ず人を惹きつける。この惹きつけ方は、なかなか万人向けとはならないものだけど、それでも何割かの人間の評価を得る。同時に、独自であるがゆえに、なにをすればいいのかわからない層を、始動段階ではことごとく拒絶しもする。つまり、期待通りではない、ということが、プラスにもマイナスにも働くのだ。
今回、FF14は私にとってそういう奇特な作品になる可能性がある素材だと思えるようになってきた。
FF14は、WoWや、アジア産量産型や、ましてやFF11などが提供する楽しみと同種のものを、決して期待してはいけないタイトルだ。強いていえば、UOやSWGの系統を期待したほうが感覚的には近いけど、やはり何かにベースを置いて評価するのは難しい。そんな個性を放っていると思う。
この「よくわからない感」こそが、これほどまでに未完成で、恥ずかしいできばえの、日本ゲーム界を牽引すべき大企業が決して作ってはいけない品質であるFF14を、それでも私がプレイしている理由に他ならない。センス・オブ・ワンダーといってもいい。
ま、正直言うとね。いろいろ言っても、FF14の開発陣にMMORPG作りのセンスはないと思うし、この個性も偶然の産物で、セールスポイントにまで昇華させることができず、腐敗させてしまうんだろうと思ってはいるんだけどね。でも、今はまだそれが新鮮なので、楽しいのだ。
「金を払って遊ぶ」ほうが「金を払わないで遊ばない」よりも自分に得。今はまだそう思えている。