帰国日の前日に泊まったのが、The Oakley Courtというホテルだ。
立地はヒースロー空港から車で20-25分ほどのところ。ウィンザー城の近くに位置していて、初日に泊まったHeathrow/Windsor Marriott Hotelからもそう遠くないところにある。翌日の帰国に備えて、ヒースロー空港の近くに泊まりたかったものの、さすがに初日と同じところでは芸がないので、このホテルに白羽の矢を立てた、という次第だ。
このホテルは、いわゆるマナーハウスとか、カントリーハウスと呼ばれる、古い貴族の館を改造したホテルで、いままでの庶民的な宿とは一線を画すエレガントさだった。旅程の最後にきて、ちょっと冒険してみたわけだ。
とはいっても、立派なのはあくまでも敷地や建物の外枠。内側はというと、そんなに洗練されてもいないな、というのが感想だった。
そりゃ、敷地を流れるテムズ川やそれを望む庭園、桟橋やテラスカフェなどは、実に優雅なもので、そこにいるだけで異世界感を感じられる素敵な場所だったよ。でも、内部の設備は最新とは言いがたかったし、従業員もプロフェッショナル揃いというよりは、アルバイトに毛が生えたような面々、というような雰囲気で、内実が伴ってはいなかった。なんとなく二流のコスプレホテルというような印象だったというのが、正直なところだ。
想像よりもお手ごろな宿泊費用だったけど、その値段からしてみても、「ハードはいいけど、ソフトは普通以下」という評価が妥当ではないかなと思う。
ただ、それでもやっぱりハードウェアの破壊力はすさまじかった。チェックインした時点では「これは期待はずれかもしれないな」と思っていたんだけど、夕食どきに庭園のテラスカフェで食事をして、印象がガラリと変わってしまった。
グロテスクなゴシック建築の建物を背景に、緑の芝生とゆったりと流れるテムズ川を眺めながら、傾きかけた陽光に照らされて頂くディナーは、さすがに一級品の思い出になった。この経験は、同じ値段で、より設備の整った、最新式のホテルに泊まっても、ちょっとやそっとじゃ味わえない。このハードウェアあってこそ輝くユニークなひとときだ。
結局、そのディナーの印象がすこぶる良かったおかげで、ホテル全体の印象も跳ね上がってしまった。ハードウェアの魔力にころっと騙されているようでしゃくだけども、今思い返しても、「あのホテルにして良かったな」と思っているのだから、まぁそれはそれでいいのだろう。