日記: 3月8日(2024年)

 はじめての胃カメラを体験した。

 鼻経由で、意識下で行うタイプの、今日日の検診ではもっとも主流と思われるやつだ(知らんけど)。それっぽく言えば、経鼻上部消化管内視鏡検査・・・かな。

 今まで私は胃の検査と言えば、バリウムを飲んで宇宙飛行士訓練マシーンでぐりんぐりんする、おなじみの手法のやつでしかしたことがなかった。だけど今回の検診では、オプション料金を出して、胃カメラによる検査をトライしてみることにしたのだ。

 特に不安な症状が思い当たったわけではない。単純に「やってみたかった」という興味本位によるトライだ。

 だから当日は、初体験に緊張、というよりも、興味深さに興奮、という気持ちが強かった。一体これから自分の身に何が起こるのか。正直楽しみで仕方がなかった。

 検査をしたクリニックは、結構繁盛しているところだったので、次から次へと胃カメラの受診者が検査室へ送り込まれては、検査されていた。

 そこでは、ただただ淡々と、次々に受診者が処理されていっていた。いっそ機械的というか。私も郷に入っては郷に従い、「流れ作業下にある工業製品」になったつもりでいるのがよさそうだ、と腹をくくった。

 しばらくすると自分の番が来たので、呼び出しに応じて検査室へ入った。

 まず椅子に座らされ、小さなコップに入った少量の液体を渡され、それを飲まされた。胃の中の泡ぶくを消す薬らしい。これがかなり不味い。ここ数年で一番不味い飲み物だった、とさえいえる。が、少量なので一瞬で終わる苦しみではあった。

 次に、自分の手で自分の鼻の下にティッシュをあてがう姿勢を指示された。

 そして「ゴニョゴニョゴニョ(聞き取れない)・・・は左でいいですか?」と聞かれた。

 質問の意図が分からん。テキトーに「はい」と返事。

 すると、こちらの心の準備を待つこともなく、不意打ち気味に左の鼻の穴にしゅっとスプレーを噴射された。内視鏡挿入時の鼻血を抑える薬らしい。これも鼻からのどに薬液が垂れてきて、それがまた不味かった。

 しかしそんなことよりも、あまりにも鮮やかな不意打ちに唖然。手慣れた暗殺者のナイフのごとしだった。「え?」と思う頃にはもうスプレーされた後だった。

 そのまま流れるような手さばきで、次に私の左鼻腔に襲い掛かってきたのは、シリンジに入れられた麻酔薬だった。おそらくジェル状のもの。それを鼻の穴にじゅるりと流し込まれた。

 この時に至っては、もう処置への衝撃がさほどなかった。それは、まな板の上の鯉の心境だったからなのか、麻酔が効いていたせいなのかは、わからない。おそらくその両方だろう。

 座位で行われた最後の処置は、鼻にゴムチューブを挿入することだった。ローションのようなものでぬめぬめになったゴムチューブを、鼻の奥までぶすっと刺された。麻酔をしているのであまり感触はない。ただ、「ああ、こんな長さのものが、こんなに深く鼻に刺さっていいのか?」という謎の危機感だけはあった。生命体としての本能的な危機感だ。

 そんな鼻チューブが刺さっている状態で、椅子に座って待つことしばし。

 ついに私の番が来た。診察台に横たわり、胃カメラ検査が始まった。

 鼻に刺さったチューブを無造作に引き抜かれ、そこに内視鏡が挿入された。

 ・・・んだけど、こ、これキツイ。

 内視鏡の先端部分がちょっと太くて、鼻の穴の軟骨に引っかかる感じを受けた。しかし医者の先生は、そんなことを意にも介さず、強引にぐりぐりと軟骨を押し広げ、内視鏡を挿入していった。

 麻酔をしているので痛くはないんだけど、骨がジンジンいっているのは分かった。この鼻軟骨のジンジンとした感覚は、このあと半日ほど持続することになった。

 そしてここで思い当たった。

 先刻「左でいいですか」と聞かれたときに、「右で」というべきだったと。

 私は普通に呼吸をするときや、鼻をかんだりするときに、右の鼻の穴のほうが空気の通りがいいのだ。たぶん、右の鼻の穴のほうが広いのだろう。だからそういう主張をすべきだったのだ。そうすれば、もう少し内視鏡もすんなりと入ったにちがいない。たぶん。知らんけど。

 で、あるなら、願わくばあのシーンでは「普段空気の通りのいいほうの鼻は左右どちらですか」というような聞き方をしてほしかったなぁ。ま、我ら工業製品にはそんな扱いは過剰なのだろう。身の程をわきまえぬ発言をお許しください。

 さて、内視鏡は先端部分だけ少し太いようで、先端が入ってしまえば、あとはするすると入っていった。

 そして奥へ奥へと内視鏡が入っていき、検査が始まった。

 この時の気分は、キモイ、の一言だった。

 のどのあたりの異物感が半端ない。痛いわけではないんだけど、その状態でいてはいけない、という本能的な拒絶反応が沸きあがってきた。今すぐパニックになれ、暴れろ、逃げろと体が指示してくる。それを必死に理性で押しとどめ、安静を保つことに集中した。そんな時間だった。

 しばらくすると、少しだけ慣れてきて、内視鏡のモニターを見る余裕も生まれてきた。のだけど、残念! 私はこの時眼鏡をはずしていたので、モニターがよく見えなかった! 自分の胃の実況中継、見たかったのに・・・。

 結局どのくらいの時間、検査していたのだろうか。5分足らずだったと思うけど、早く終われと願い続ける時間が終わった。

 麻酔の影響で1時間ほどはモノをうまく飲みこめないそうなので、検査中に口にたまった唾液ははきだした。べりょーん。

 そんな汚い場面をもって、胃カメラ検査は終了だ。終わってしまえばすっきりだ。ふう。

 検査の感想は、思ったよりというか、思った通りにというか、キツかったな。「技術が進歩して、今はまったくキツくないです!」なんてことはまったくなく、一定のキツさはあった。やっぱりあんな異物を体内に入れるのはつらいよ。

 バリウムをがぶ飲みする、という行為とどっちがつらいかと言えば、私にとっては胃カメラのほうが確実につらかった。ただこれは個人差があろう。私はバリウムを飲むこと自体には、あまり苦しさを感じないほうなので。

 また逆にバリウムによる検査と比べて良かったことは、検査後の後遺症がないことだ。バリウムによる検査をすると、そのあと半日くらい「排出しなければ」「水分を摂取しなければ」という義務感が脳内を占拠して、どうにも気分が落ち着かないものだけど、胃カメラ検査の場合は、そういう後を引く悩みがなにもなかった。

 トータル的に言えば、一時だけつらい胃カメラのほうが良かったかもしれない。受信後のQOLが即座に高いのはよかった。この辺の印象は、検査後の予定が外出かどうかで変わるかもしれないな。バリウムを飲むと心理的に私は外出しにくいので。

 ともあれ面白い体験だった。また1つ、実績解除だ。

 なお、検査では小さなポリープが1つあったくらいで、特に重大な異常はなかったそうだ。

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