10周年記念企画もいよいよラスト。最後のタイトルは、Neverwinter Nights(NWN)だ。
NWNは、PC用RPGの傑作シリーズバルダーズゲート(BG)シリーズの流れを汲む、TRPGのD&DのルールをベースとしたRPGだ。D&D PCゲームシリーズの日本語化を手がけていたSEGAが、最後に日本語化をしたゲームでもある(NWN2は日本語化されていない)。
余談だけど、BG2はPC用のRPGの中では、かなりの傑作だと思っている。和製RPGのような「その気がなくても吸い込まれるほどの派手な演出」もなければ、Diabloのような爽快なアクションもなければ、Oblivionのような完全な自由度もない。読みにくいテキストを目を凝らして読まなければ演出は楽しめず、すぐに仲間が障害物に引っかかるのをいちいち救い出しながら移動させなければろくにキャラが動きもせず、旧態依然としたクオータービューのインターフェイスには自由度のかけらも見られない。
であるにもかかわらずBGシリーズは、はまりだすと止まらない魅力を備えている。それは1つにはクエストラインの荒唐無稽なのになぜかリアルなファンタジー感にあったり、1つにはいろいろな突発イベントの意外性にあったり、また1つにはあらゆる登場人物に清濁双方の感情が込められているリアリティにあったりする。
しかし最もBGシリーズを傑作たらしめているのは、D&Dという名作がバックボーンとなっていること、そして歴史ある背景世界フォーゴットンレルムが舞台となっているということだ。私はいわゆるTRPGプレイヤーではなくて、だからD&Dにも別に思い入れはなかったんだけど、そんな私ですらルールの明確さと、背景世界の複雑さに感銘を受けざるを得なかった。ルールが明確なためにご都合主義的な展開が少ないこと、そして背景世界の厚みがあることの2点が、ゲームの中に1つの秩序立った世界を構築することを可能にしていて、それゆえに、そこに無理なくプレイヤーが入っていけるのである。こういう没入感を得られるゲームは少ない。
で。NWNだ。
そんなBGの流れを汲むNWNなんだけど、実はBGとは全く違うゲームと言っていい。なるほどグラフィックが3DになったBG、という捉え方はできる。確かに同じようにD&Dのルールを採用し、操作体系も同じで、舞台も同じフォーゴットンレルムだ。でも、それはNWNの特性の1割程度に過ぎない。
NWNの最大の特徴は、「シナリオの作成、及び、そのオンライン共有、及び、DM(ゲームの管理者)としてのシナリオ制御、が可能なゲーム」だという点にある。
例を挙げよう。以下のようなことができるのだ。
1.シナリオツールで村を作る
2.シナリオツールで洞窟を作る
3.シナリオツールで村長を作る
4.作ったそれらをオンラインでサーバーとして立てる
5.ゲーム仲間をそこに呼ぶ
6.ゲーム仲間はそれぞれのキャラで村に入る
7.自分は村長に乗り移って
「洞窟に化け物が!助けてくれ!」とか言う
8.ゲーム仲間は洞窟に乗り込む
9.洞窟の中に化け物を配置して戦わせる
10.etc
NWNは、「オンラインでTRPGがグラフィカルにできるツール」ともいえるし、「オンラインRPGツクール」ともいえる。実際に少人数の仲間内で、TRPGのセッションのようにして遊ぶためにNWNを使っている人たちもいれば、常設サーバーとして自作の世界を公開し、MMORPGもどきとしてNWNを使っている人もいる。あるいは人によってはオンラインプレイをまるでしないかもしれない。NWNをどう使うかは、人それぞれ自由なのだ。そしてこの多様性こそが、NWNの真の魅力なのである。
ただこういう遊び方、つまりTRPGのような遊び方をすることそのものが、遊ぶ人を選ぶ部分が大いにあって、かくいう私も長期にわたってNWNを遊んだわけではなかったりする。でも私の嗜好は別として、NWNのオンラインRPGとしての特異性は疑うべくもなく、そういった点でNWNは歴史的な十分に作品足りえるものだ。前述の通り、ユーザーを選ぶものではあるから、大ヒットすることは金輪際ないだろうけど、こういう既存のものに縛られない作品を世に出すことそのものを、そしてそれがその目的の上で高い完成度を持っていることを、私は高く評価したい。
NWNはその後、いくつかの拡張パックを経て、NWN2の発売にまで到った。NWN2は残念ながら日本語化されず、しかも非公式日本語化パッチを導入しているとオンラインプレイで支障が出るらしく、オンライン上でチャットすら日本語で行うことができないらしい。だから日本でのNWN2の展開は、皆無とは言わないまでも、非常に非常に小規模で、事実上日本におけるNWNの展開は、NWNの最後の拡張パックまでだったといっても過言ではない。
そんなわけで日本におけるNWNの世界は、縮小の一途をたどっているようだ。
しかし、それでも私はNWNというゲームが存在したことを喜び、かつ、願わくばまた同じような「今までなかったオンラインRPG」の登場を期待しているのであった。